ある患者様の喉のエピテーゼ製作において、
スキャナーと従来法(印象材)のどちらの方法で進めるか悩んだ末、最終的には従来法で進めた経緯をお話したいと思います。

ものづくり
ものづくりにおいて、「技術の進化」と「手作業の確実性」の間でどのように判断するかは、
常に私たち技工士にとってのテーマです。
今回は、まさにその選択が求められた製作でした。
📸 進化するスキャナー技術とその魅力
最近では、3Dスキャナーの性能が飛躍的に進化しており、
高精度・高速・非接触で対象物の形状をデジタルデータ化できるため、
私たちエピテーゼ製作の現場でも導入が進んでいます。
スキャナーを使うことで、
- 移動が難しい患者さんの対応が可能に
- データを複数の技工士間で共有できる
- デジタル上での修正が可能になり作業効率が上がる
といった大きなメリットがあります。
特に喉のように形状が複雑かつ凹凸が多い部位においては、
デジタル技術の恩恵を強く感じることが多く、今回もその予定でした。
⚠️ しかし、落とし穴が……
実際の製作に入る前、スキャナーで対象部位を撮影。
操作自体は問題なく、あっという間にスキャンが完了。
「これなら、あとはデータを3Dプリンターに送るだけだ」と
少しホッとした瞬間でもありました。
ところが…。
いざスキャンデータを確認してみると、解像度が明らかに低いのです。
細かい凹凸や境界のエッジがぼやけていて、
「このデータでは、正確なエピテーゼの成形は難しい」と判断せざるを得ませんでした。
原因を確認してみると、スキャナーの設定が“低解像度モード”になっていたのです。
普段は高精度に設定して使っているのですが、
今回は事前の設定確認を怠ってしまい、
そのままスキャンを実行してしまったという、完全なヒューマンエラーでした。
この一連の流れの中で、
「新しい技術に頼りすぎてはいけない」
という原点を思い出しました。
デジタル技術はあくまでも“道具”。
設定確認やデータチェックなどの「基本」は、どんなに時代が進んでも外してはいけない。
そんな当たり前のことに改めて気付かされました。
🤝 スキャナーと印象材の“使い分け”が大切
今回の件を通して、私はスキャナーと印象材、どちらが良い・悪いという単純な話ではないことを実感しました。
スキャナーの利点:
- 非接触で患者さんの負担が少ない
- データとして保存・共有が可能
- 加工や設計において自由度が高い
印象材の利点:
- 触感と視覚を通して確実に採型できる
- 形状の細部まで精密に再現しやすい
- 小規模での作業や即応性に優れる
状況や部位、患者さんの状態によって、最適な手法を選ぶことが技工士の判断力だと思います。
今後は、「高解像度設定の確認チェックリスト」を導入し、
再発防止に取り組んでいきたいと考えています。
🌱 失敗は進化の糧になる
今回の失敗は、正直なところ少し悔しさもあります。
ですが、新しい技術を使うからこそ、今まで以上に慎重な準備が必要であること、
そして従来法の価値がまだまだ健在であることを再認識できた貴重な経験でもありました。
患者様にとっては一つの「形」でも、
その背景にはこうした試行錯誤と、技術と人間の協働があります。
そのすべてが、より良い製品へとつながっていくと信じて、
日々技工に向き合っていきたいと思います。
🖋️ おわりに
私たち「綴(つづる)」では、
技術と人の温もりを両立した医療補綴の提供を目指しています。
これからも「失敗も学び」として大切にしながら、
患者様の生活の質(QOL)向上のためのものづくりを追求していきたいと思います。


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