
一つとして同じものはない——エピテーゼ製作に求められる力とは
エピテーゼの製作は、歯科技工の中でもとりわけ個別性が高く、繊細な仕事です。 なぜなら、対象となる患者さんが一人ひとり異なり、「全く同じ症例がこの世に存在しない」からです。
失われた体の一部を補う医療補助具であるエピテーゼ。その目的は単なる形の再現にとどまりません。 患者さんがそれを「どのように見せたいか」「どう生きたいか」という想いに寄り添いながら、その人にとって自然で、自信につながる“形”をつくることが求められます。エピテーゼは「モノ」ではなく、その人の人生の一部
私たちが製作しているのは、単なる人工物ではありません。 患者さんの日常、人生、感情までも支える存在になり得る“相棒”のようなものです。
だからこそ、製作の際には必ず対話(コミュニケーション)が欠かせません。
・どのように見られたいか
・普段どんな気持ちで過ごしているか
・何に不安を感じ、どこに違和感があるのか
こうした心の部分まで含めて丁寧に汲み取り、形にしていくことが、エピテーゼづくりにおける技工士の大切な役割です。
言葉だけでは掬えない“ニュアンス”を形にする仕事
ただ意見を聞くだけでは十分ではありません。 患者さん自身も気づいていない小さな違和感や、言葉にならないニュアンスを感じ取り、そこに技術と創造力を加えて形にしていく必要があります。
そこで大切になるのが、日頃の観察力と感性です。
● 街で人の肌の色や質感を観察する
● 美術館で光と影の捉え方を学ぶ
● 素材の研究や試作を重ねる
一見エピテーゼとは関係のない行動が、実は大きなヒントにつながることも少なくありません。
技術革新が広げる可能性と、技工士に求められる姿勢
近年、デジタル技術を活用したエピテーゼ製作は大きな発展を遂げています。 スキャン技術、3Dプリンター、シリコンの調色技術など、道具が進化することで表現できる幅は飛躍的に広がりました。
● デジタルデータの活用
● 高精度スキャンによる形状把握
● 3Dプリントによる試作・検証
これらの技術は、患者さんの負担を減らし、より自然で快適なエピテーゼを制作できる可能性を秘めています。
しかし、道具が進化すればするほど、技工士には応用力・判断力・創造力が求められます。 技術を使いこなし、患者さんにとって一番良い方法を選択できるかどうかが、仕上がりを大きく左右するからです。
「その人らしく生きる」ためのパートナーでありたい
エピテーゼは、失われた形を補うものではなく、患者さんが自分らしさを取り戻すための大切なツールです。 だからこそ、私たちは今日も、一つとして同じではない「想い」と向き合い、世界にひとつだけのエピテーゼを創り続けています。
患者さんの人生に寄り添う製品づくりのために、私たちはこれからも感性と技術を磨き続けていきます。


コメント