
新技術の光と影 〜デジタルデンチャーへの挑戦〜
歯科技工の世界では、常に「進化」が求められています。
CAD/CAM、3Dプリンター、AIによる設計支援…。
ここ数年だけを見ても、技工技術は大きく前進し、デジタル化の波は避けることのできないものとなりました。
しかし、その進化の裏側で、私たちはしばしば次のような現実にも向き合います。
“できることが増える一方で、できなくなることも出てくる。”
これは、新技術が導入されるたびに起こる“光と影”のようなもの。
今回のテーマ「デジタルデンチャー」も、まさにその一例といえます。
デジタルデンチャー保険収載がもたらす大きな変化
2024年12月1日、ついに「デジタルデンチャー」が保険収載されました。
これは業界にとって歴史的な出来事であり、多くの歯科医院や技工所で導入が加速するとみられています。
● デジタルのメリット
– 高い再現性 – 製作工程の効率化 – データ保存により再製作が容易 – 高齢化に伴う“技工士不足”への対策となる可能性
こういった利点は、従来法にはない大きな魅力です。
● しかし、その裏で起きていること
従来法では自然にできていた「微調整」が、デジタル工程では難しくなる場面があります。
咬合のニュアンス
粘膜面の微細な適合
義歯の“動き”に対する感覚的な判断
こうしたアナログ特有の“技工士の手の感覚”は、デジタルでは完全には代替できません。
従来法 vs デジタル技術 ― どちらが優れているのか?
結論からいえば、どちらか一方が優れているわけではありません。
それぞれに長所と短所があり、多くのケースでは「両方が必要」なのです。
【従来法の強み】
– 臨床のクセに応じた微調整が効く – “その人の口”の違いを感覚で読み取れる – 個別性の高い症例に柔軟に対応可能
【デジタルの強み】
– 標準化された工程で精度が安定 – 作業効率が高い – 再製作が容易 – 人手不足対策に寄与
どちらも欠かすことができず、「融合」こそが今後の技工の方向性といえます。
現場では何が起きているのか? 私たちの試行錯誤
実際にデジタルデンチャーを導入すると、想像以上に多くの課題が浮き彫りになります。
● 現在取り組んでいる工夫の具体例
咬合調整のどこまでをデジタルに任せるか?
最終調整はアナログで行う方が適合が良いケースも。
スキャン精度の向上
粘膜の動き、唾液の影響、義歯床辺縁部の再現など、スキャン時の精度が結果を大きく左右します。
最終仕上げの工程をどこに残すか?
フルデジタルにするとシェード感や質感の調整が難しいため、適材適所でアナログ仕上げを取り入れています。
まさに「デジタル × アナログの最適バランス」を探る日々です。
技工士に求められる力が変わる時代へ
新技術の導入によって、私たち技工士に求められるスキルも変わりつつあります。
● 求められる新しい力
– デジタル機器を理解し扱う力 – 3Dデータや咬合設計を分析する力 – 従来法との違いを理解し補完できる力 – トラブル発生時に原因を推理できる力
技工士はより「総合力」が必要な職種へ進化しているのかもしれません。
進化は一人ではできない ― 仲間が未来を作る
新しい技術を現場に導入する際、最も大切なのは 情報共有と協力 だと感じます。
症例の共有
失敗事例の共有
データ解析の協力
ノウハウの交換
どれも一人では絶対にできません。
技工士同士、そして歯科医師と技工士が一緒になって考えることで、
技術は初めて“本物の進化”となります。
まとめ ― デジタルデンチャーは「ゴール」ではなくスタート
デジタルデンチャーの保険収載は、業界にとって大きな追い風です。
しかし同時に、新しい課題への挑戦の始まりでもあります。
重要なのは技術ではなく、それを使う“人”。
柔軟に学び続け、デジタルとアナログを組み合わせ、
患者様の満足につながる義歯を作り続けること。
この姿勢がこれからの技工士にもっとも求められていくと感じています。
私たちも、現場の技工士として、日々の気づきや工夫を積み重ねながら、
未来の技工につながる技術を育てていきたいと思います。


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