🌟世界初の挑戦⁉ デジタル技術で実現した口唇口蓋裂の一体型補綴 ― 技工の未来を綴る
今回は、私たちが長年の課題としてきた「口唇口蓋裂(CLP)の補綴製作」において、大きな一歩を踏み出した取り組みをご紹介します。
私自身、「これは世界初かもしれない」と感じたほどの成果であり、学会でポスター発表した際には多くの反響とご質問をいただきました。
この取り組みは、デジタル技術が医療と技工をつなぎ、これまでの常識を超える可能性を感じさせるものでした。
🔍背景:CLPにおける2つの補綴「ホッツ床」と「エピテーゼ」
口唇口蓋裂の患者様には、主に2種類の補綴が用いられます。
ひとつは、口蓋の形態と機能を補助する「ホッツ床」と呼ばれる装置。
もうひとつが、欠損した唇や鼻翼を補う「エピテーゼ(人工補綴物)」です。
これまで、この2つは別々に製作されてきました。
しかしその分、装着や管理が煩雑で、特に乳児期では保護者の方の負担も大きなものでした。
毎日の着脱や清掃、装着位置のズレなど、細やかな調整が必要で、医療現場でも長年の課題とされてきたのです。
💡チャレンジ:一体型での製作に挑戦
今回、私たちは 口腔内スキャナー(IOS:Intraoral Scanner) の技術を活用し、ホッツ床と唇エピテーゼを一体化して製作するという、まったく新しいアプローチに挑戦しました。
対象は9ヶ月の乳児で、左側のCLP症例。
スキャンは、赤ちゃんが眠っている間に行いました。
唇と口蓋をそれぞれ別々にスキャンし(Fig.2)、得られたデータを3D化(Fig.3)。
そのうえで、私たちが独自に開発した マッチングデバイス(Fig.4) を使用し、2つのスキャンデータを高精度に統合しました(Fig.5〜6)。
こうして得られた正確なデジタルモデルをもとに、3Dプリントで製作した模型上でホッツ床とエピテーゼを一体化(Fig.7〜10)。
従来なら数週間を要していた作業を、デジタル技術によって短期間で高精度に実現することができました。
✅成果:一体型補綴の完成と装着
完成した補綴装置は、口腔内のホッツ床と唇エピテーゼが一体となった構造です。
装着時の安定性、審美性の向上に加え、保護者の管理もしやすくなりました。
実際に装着した際(Fig.12)、口元のバランスが自然に整い、ご家族からは「まるで生まれつきのよう」とのお言葉をいただきました。
肌の色に合わせたエピテーゼの色調調整(Fig.11)も行い、できるだけ自然な印象に仕上げました。
医療従事者の方々からも、
「乳児期の補綴として理にかなっている」
「日常管理がしやすく、家族の負担軽減につながる」
といったご意見をいただき、チーム一同、技工の可能性を改めて感じました。
🧠学会での発表と反響
この研究成果は、第46回日本歯科技工学会学術大会 にてポスター発表を行い、ありがたいことに 優秀賞 を受賞しました。
当日は多くの医師・技工士・学生の方が足を止めてくださり、
「まさに医療と技工の融合」
「デジタルの力でここまでできるとは!」
といった驚きの声をたくさんいただきました。
学会という場で、多くの専門家と直接意見を交わすことで、
自分たちの技術が確かに “次の医療現場” に貢献できるという実感を得られたのも大きな収穫でした。
🧭今後の課題と展望
もちろん、課題もまだ残っています。
特に、乳児のスキャン時の動きにどう対応するか、口腔内スキャナーの精度をどう高めるかなど、今後さらに検討すべき点があります。
また、撮影環境や機器の種類によるデータ精度のばらつきも、標準化に向けて整理が必要です。
しかし、このようなデジタル技術を補綴製作に応用する取り組みは、確実に医療現場に新しい風を吹き込んでいます。
“すべてがデジタルで置き換えられるわけではない” とはいえ、これまで職人の勘や経験に頼っていた部分が、より再現性をもって共有できる時代が来ているのです。
「技工士の手仕事 × デジタルの精度」
この組み合わせこそが、これからの補綴医療の未来をつくる鍵になると感じています。
📩最後に
この一体型補綴のポスター資料は、ご希望があればご覧いただけます。
医療関係者の方、学生の方、またエピテーゼに関心をお持ちの方は、どうぞお気軽にお問い合わせください。
エピテーゼサロン綴では、これからも “誰もが笑顔で過ごせる社会” を目指して、
新しい挑戦と創意工夫を続けてまいります。
ひとつひとつの技術が、誰かの笑顔につながるように――。
これからも技工の未来を、綴っていきます。



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