製作の裏側|「肌色」は一色ではない。エピテーゼの色合わせが難しい理由と、そこに込める思い
エピテーゼの製作は、形を整えるだけではなく、色を自然になじませることもとても大切です。
特に大学病院などでの製作では、限られた時間や条件の中で判断しなければならない場面もあり、普段のサロンでの製作とはまた違う難しさがあります。
今回は、エピテーゼ製作の裏側として、色を合わせる難しさと、その中で私が大切にしていることについて書いてみたいと思います。
この記事でわかること
- エピテーゼの色合わせが難しい理由
- 大学病院での製作が普段とどう違うのか
- 写真や色見本だけでは分からない難しさ
- 綴が大切にしている「背景まで考える製作」の姿勢
- 限られた時間の中で製作者が何を考えているのか
大学病院からご依頼をいただくことがあります
エピテーゼを製作していると、ときには大学病院からご依頼をいただくことがあります。
その多くは、患者さんがサロンへ直接来ることが難しいケースです。
そのため、こちらから病院へ伺い、必要に応じてデジタル技術も応用しながら製作を進めることがあります。
普段、綴ではサロンにお越しいただいた方と実際にお話をしながら製作を進めています。
どのような場面で使いたいのか、普段どのような生活をされているのか、どんなことに困っておられるのか。
そうしたことを伺いながら、その方にとって必要な形や色を一緒に考えていくことを大切にしています。

けれど、大学病院での製作は、いつものようにはいかないことも少なくありません。
患者さんの体調やご負担を考えると、長い時間をかけて試適をしたり、何度も細かく色を見比べたりすることが難しい場合もあります。
本当はもう少し見たい。
もう少し確認したい。
そう思っても、限られた時間の中で判断しなければならないことがあります。
エピテーゼの色合わせは、想像以上に難しい作業です
「肌色」とひとことで言っても、実際の肌は一色ではありません。
明るさ、赤み、黄み、血色感、影、透明感。
皮膚だけの色味ではなく毛細血管や静脈、動脈の色
皮膚表面の日焼け、年齢など
多くの要素が重なり合って、その人らしい自然な色がつくられています。
だからこそ、エピテーゼの製作で色を合わせる作業は、想像以上に難しいものだと感じています。
近い色を一つ選べばよいというものではなく、いくつもの要素を見ながら、少しずつ調整を重ねていく必要があります。
病院へ伺う際には色見本を持参し、写真も見ながら、できるだけ実際の肌となじむように製作を進めていきます。
けれど、写真だけでは分からないことがたくさんあります。
実際にその場で見たときには自然に感じた色が、写真では少し暗く見えることもあります。
逆に、写真では近く見えても、実物のお肌には血色感ややわらかさがあり、合わせてみると違和感が出ることもあります。
ほんの少しの赤み、わずかな黄み、その微妙な差が、仕上がりの自然さを大きく左右します。
光の当たり方や見る場所でも印象が変わります
さらに難しいのは、光の当たり方によって色の見え方が変わることです。
↓自然光での見え方
↓室内での見え方

たとえば、室内の照明の下では自然になじんで見えても、窓際の自然光では少し明るく感じることがあります。
逆に、自然光では落ち着いて見えていた色が、別の場所では赤みが強く見えることもあります。
正面から見たときと、少し横から見たときでも印象は変わります。
そのため、ただ「この色が近い」と決めるのではなく、実際に使われるときにどう見えるか、少し離れて見たときにどうなじむかまで想像しながら、色を重ねていく必要があります。
一度でぴったり合うことは、ほとんどありません。
ベースの色を決めてから少しずつ着色し、血管なども表現していきます。
そうした細かな調整の積み重ねで、ようやく自然な色味に近づいていきます。
歯科技工とはまた違う難しさがあります
歯科技工の仕事でも、色を見る力や再現する技術はとても大切です。
けれど、エピテーゼの色合わせは、それとはまた違う難しさがあります。
肌の色だけでなく、皮膚のやわらかさや血色感、周囲の肌とのつながりまで意識しなければならないからです。
しかも、エピテーゼはただ形が合っていればよいものでもありません。
その方が身につけたときに、少しでも自然に見えること。
鏡を見たときに、少しでも安心につながること。
そこまで含めて製作することも大切にしています。
綴が大切にしていること
生活や背景も含めて考えながら製作しています
綴では普段から、ただ「ものを作る」のではなく、使われる方の生活や環境、その方の背景も考えながら製作することを大切にしています。
どんな毎日を過ごしておられるのか。
どんな思いで必要としてくださっているのか。
どういう場面で使うことを想定しているのか。
そうしたことを知ることで、形も色も、その方に合ったものへ近づけていけると考えているからです。
サロンでじっくりお話を伺えるときは、そうした背景も含めて確認しながら製作を進めることができます。
けれど、大学病院からのご依頼では、その時間が十分に取れないこともあります。
だからこそ、限られた情報や短い時間の中でも、その方にとって何が大切なのかを想像しながら向き合うことが必要になると感じています。
限られた時間の中で考えること
ものを作るだけではないと感じる場面があります
大学病院からのご依頼には、いつもの製作とは少し違う重みを感じることがあります。
ご依頼いただく方の中には、残された時間が限られている方もいらっしゃいます。
そうした現実に向き合うとき、私はただ「より自然に」「よりきれいに」という考えは少し
違和感に感じています。
限られた時間の中で、この方にとって本当に大切なことは何だろう。
自分にできることは何だろう。
どこまで整えることが、その方にとって意味のあることなのだろう。
そんなことを、いつも以上に深く考えます。
もちろん、形や色を整えることは大切です。
けれど、それだけではなく、少しでも安心していただけること、少しでもその方らしく過ごせること、少しでも気持ちが和らぐこと。
エピテーゼの製作には、そうした願いも込められているのだと思います。
自分にできることは何かを考えさせられます
ものを作る仕事ではありますが、ただ作って終わる仕事ではない。
大学病院でのご依頼に向き合うたびに、そのことを改めて感じます。
限られた条件の中での製作では、「もっと時間をかけて見たかった」と思うこともあります。
「もっと確認できていたら」と悩むこともあります。
それでも、そのときの自分にできることを精一杯考え、一つひとつ向き合うことが、次の製作にもつながっていくのだと思っています。
技術だけでは届かない部分があり、気持ちだけでも形にはなりません。
その両方をどう重ねていくか。
エピテーゼの製作は、その繰り返しなのかもしれません。
色を合わせることの意味
色を合わせることは、ただ見た目を整えることではなく、その方の時間や思いに、少しでも自然に寄り添うことなのだと感じています。
これからも、一つひとつの製作に丁寧に向き合いながら、少しでも違和感が少なく、少しでも安心につながるものを届けていきたいと思います。
