乳がん触診キットの試作 〜「触って知る」ことを、乳房の変化に気づくきっかけへ〜
現在、私たちは乳がんについて考えるきっかけづくりを目的とした「触診キット」の試作を進めています。

今回取り組んでいるのは、乳房の中にある「しこり」を、シリコンを使ってできるだけ分かりやすく再現し、実際に手で触れることのできる学習用モデルをつくることです。
乳がんについて、テレビやインターネット、パンフレットなどで情報を目にする機会は増えてきました。
しかし、
「しこりって、実際にはどんな感じなのだろう?」
「触ったときに、どのような違いがあるのだろう?」
と聞かれると、実際に触診モデルなどを触った経験がない方にとっては、なかなかイメージしにくいものだと思います。
写真や文章だけでは分かりにくいことも、実際に手で触れてみることで、初めて理解できることがあります。
だからこそ今回は、「見る」だけではなく、「触って知る」ための教材をつくってみたいと考えました。
- この記事でお伝えしたいこと
- きっかけは「しこりの感触を知る機会をつくれないか」
- 現在試作しているのは「シリコン製のしこり」
- 「しこり」はすべて同じ形ではありません
- 将来的には、いくつかの特徴の違いも学べるモデルへ
- 目的は「自分で診断すること」ではありません
- 「しこりってどんな感じ?」を、実際に触って知る
- 「どの深さに入れるか」も大切な試作ポイント
- 作って、触って、また作り直す
- 「それらしいもの」ではなく、学べるものをつくりたい
- 啓発イベントや教育の場でも使えるものへ
- エピテーゼ製作で培ったシリコン技術を、新しい形で生かす
- ものづくりからできる社会貢献
- 「触って知る」ことから始まる気づき
- 早期発見を意識する「入口」の一つに
- まだまだ試作は続きます
- おわりに 〜「触って知ること」を、次の行動につなげたい〜
この記事でお伝えしたいこと
- 現在試作している乳がん触診キットについて
- シリコンで「しこり」の硬さや形を再現する試み
- 触診キットを使って伝えたいこと
- 「触っただけで診断する」ものではないという大切な点
- エピテーゼ製作の技術を、啓発や教育にも生かしたいという思い
きっかけは「しこりの感触を知る機会をつくれないか」
今回の触診キットの試作で、まず考えたのは、
「乳房のしこりというものを、もっと身近に感じてもらえる方法はないだろうか」
ということでした。
乳がんという言葉は知っていても、実際にどのような変化が起こることがあるのか、どのような感触として感じることがあるのかまで知っている方は、それほど多くないかもしれません。
もちろん、実際の乳房にみられる変化は一人ひとり異なります。
また、しこりがあるからといって、すべてが乳がんというわけではありません。
そのため、触診キットだけで何かを判断することはできません。
それでも、
「こういう感触の違いがあるのか」
「普段から自分の乳房の状態を知っておくことが大切なのだな」
と考えるきっかけになれば、触って学ぶ教材には意味があるのではないかと思っています。
現在試作しているのは「シリコン製のしこり」
今回の試作では、まずシリコンを使って、しこりの形や硬さを表現するところから始めています。

写真は、現在試作しているシリコン製の「しこり」です。
左は比較的なめらかで丸みのある形、右は表面に凹凸をつけた不整な形にしています。
同じ「しこり」をイメージしたものでも、形を変えるだけで見た目や触ったときの印象は大きく変わります。
私たちはこれまで、エピテーゼや人工乳房などの製作を通して、さまざまなシリコン素材を扱ってきました。
シリコンは、配合や種類によって、柔らかさや弾力、表面の感触などを変えることができます。
その特徴を生かしながら、
- 硬めのもの
- 少し柔らかいもの
- 丸みのあるもの
- 表面に凹凸のあるもの
- 境界が比較的分かりやすいもの
- 触ったときに形を感じ取りにくいもの
など、いろいろなパターンを試しています。
同じ素材でも、硬さや厚み、形状を少し変えるだけで、指先から伝わる感触は大きく変わります。
この「少しの違い」をどこまで分かりやすく表現できるかが、今回のものづくりの難しいところでもあり、面白いところでもあります。
「しこり」はすべて同じ形ではありません
一口に「しこり」と言っても、すべてが同じ硬さ、同じ大きさ、同じ形をしているわけではありません。
そのため、単に丸いシリコンの塊を一つ入れただけでは、学習用のモデルとしては十分ではないのではないかと考えました。
例えば、比較的なめらかで丸みを感じる形。
一方で、少し不整な形や、表面に凹凸を感じる形。
さらに、柔らかさや硬さにも違いを持たせる。
そうすることで、
「同じ“しこり”という言葉でも、触った感触には違いがある」
ということを体験してもらえるようにしたいと思っています。
将来的には、いくつかの特徴の違いも学べるモデルへ
今後は、より学習教材として役立つものにするために、良性病変と悪性病変でみられることのある特徴の違いを、モデルとしてどのように表現できるかについても検討していきたいと考えています。
ただし、ここで非常に大切なことがあります。
実際の乳房のしこりは、触った感触だけで良性・悪性を判断できるものではありません。
「硬いから悪性」
「丸いから大丈夫」
といった単純な判断ができるものではありません。
実際には、医療機関で必要な診察や検査を受け、総合的に判断されます。
そのため、今回の触診キットは、あくまで啓発や学習のためのモデルとして考えています。
目的は「自分で診断すること」ではありません
触診キットという名前を聞くと、
「これを触れば、自分で乳がんかどうか分かるのでは?」
と思われる方もいるかもしれません。
しかし、それが目的ではありません。
私たちが目指しているのは、
普段から自分の乳房の状態を意識し、いつもと違う変化に気づくきっかけをつくることです。
普段の状態を知らなければ、「いつもと違う」という変化にも気づきにくいものです。
だからこそ、自分の身体に関心を持つこと。
日頃から変化を意識すること。
そして気になる変化があったときには、一人で判断せず、必要に応じて医療機関へ相談すること。
そうした行動につながる入口の一つとして、触診キットを活用できればと考えています。
「しこりってどんな感じ?」を、実際に触って知る
「乳房にしこりができることがあります」
と言葉で聞くだけでは、実際の感覚はなかなか分かりません。
写真を見ても、触ったときの感覚までは伝わりません。
しかし、触診モデルであれば、指先で押したり、周囲との違いを感じたりすることができます。
例えば、
「意外と小さい」
「思っていたより硬い」
「表面の感じが違う」
「深い場所にあると分かりにくい」
といったことを、体験として感じることができます。
こうした体験は、乳がんについて考える入口として、とても分かりやすいのではないかと思っています。
「どの深さに入れるか」も大切な試作ポイント
現在、試作を進める中で考えているのは、しこりそのものの硬さや形だけではありません。
乳房モデルの中のどの位置、どの深さに配置するかという点も重要です。
表面に近い場所にあるものは、比較的触って分かりやすくなります。
一方で、少し深い場所に配置すると、同じ硬さや形でも感じ方が変わります。
触診というのは、単に指先で表面を触るだけではなく、乳房全体の中で「いつもと違う部分があるか」を感じ取ることでもあります。
そのため、模型の中にしこりを配置したときに、
- 簡単に分かりすぎないか
- 逆に分かりにくすぎないか
- 押したときの感触が自然か
- 周囲のシリコンとの硬さの差が適切か
といったことも確認しながら調整しています。
作って、触って、また作り直す
こうした試作品は、一度作っただけでは完成しません。
硬さを変える。
形を少し変える。
大きさを変える。
内部に入れる位置を変える。
そして実際に触ってみる。
「これは少し分かりやすすぎる」
「こちらは硬すぎる」
「もう少し境界を感じにくくした方がよいのではないか」
そんなことを考えながら、また作り直します。
ものづくりというのは、この繰り返しです。
頭の中で考えているだけでは分からないことが、実際に形にするとたくさん見えてきます。
だからこそ、まず作る。
そして触る。
違和感があれば直す。
この地道な積み重ねが、最終的な製品の質につながっていきます。
「それらしいもの」ではなく、学べるものをつくりたい
私たちが今回大切にしたいのは、単に「乳房のしこりらしく見えるもの」をつくることではありません。
見た目だけではなく、実際に触ったときに学びにつながること。
そして、乳がんについて正しく関心を持っていただくきっかけになること。
そこまで含めて、初めて意味のある教材になると考えています。
そのため、今後は製作者側の感覚だけで完成させるのではなく、医療関係者の方々の意見や医学的な知見も取り入れながら、内容を検討していきたいと思っています。
「この感触はどうか」
「形の違いは学習用として分かりやすいか」
「どのような説明と一緒に使うとよいか」
といった点についても、専門的な立場から意見をいただきながら改善していくことが大切だと思っています。
啓発イベントや教育の場でも使えるものへ
将来的には、この触診キットを、さまざまな場所で活用できるものにしていきたいと考えています。
例えば、乳がん啓発イベント。
医療機関での説明。
学校や地域での健康教育。
アピアランスケアや乳がんについて考えるイベント。
そうした場所で、実際に手に取って触れていただく。
そこで、
「こんな違いがあるんですね」
「自分の身体にも、もう少し関心を持ってみよう」
と思っていただければ、それが大きな一歩になると思います。
エピテーゼ製作で培ったシリコン技術を、新しい形で生かす
私たちはこれまで、エピテーゼや人工乳房など、シリコンを使ったさまざまな製品を製作してきました。
エピテーゼ製作では、硬さ、柔らかさ、弾力、厚み、色、表面の質感などを細かく調整します。
同じシリコンでも、使い方によってまったく違うものになります。
これまで積み重ねてきたその知識や経験を、今度は乳がんについて知っていただくための教材づくりに生かせないか。
そこから、今回の取り組みが始まりました。
技術というのは、一つの製品をつくるためだけにあるものではないと思っています。
ある分野で培った技術が、別の分野で誰かの役に立つことがあります。
これまでエピテーゼ製作のために使ってきたシリコン技術が、乳がんについて考えるきっかけづくりにも役立つのであれば、それは私たちにとっても大きな意味があります。
ものづくりからできる社会貢献
「社会貢献」と聞くと、とても大きな活動を想像するかもしれません。
しかし、私たちのようなものづくりの会社にできることは、必ずしも大きなことばかりではありません。
自分たちが持っている技術を生かす。
必要とされているものを考える。
実際に形にしてみる。
そして、誰かが自分の身体や健康について考えるきっかけをつくる。
そうした小さな取り組みも、立派な社会貢献の一つではないかと思っています。
特に乳がんについては、多くの方にとって身近なテーマです。
怖がらせるのではなく、正しく知る。
そして、自分の身体に少し関心を持ってもらう。
そのために、私たちの技術が少しでも役に立てれば嬉しいですね。
「触って知る」ことから始まる気づき
今回の触診キットで、私たちが最も大切にしたいのは、
「触って知ること」
です。
実際に手に取る。
触ってみる。
硬さの違いを感じる。
形の違いを知る。
すると、それまで何となく遠い話だった乳がんというテーマが、少し身近に感じられるようになるかもしれません。
そして、その体験が、
「自分の身体にも、もう少し関心を持ってみよう」
という気持ちにつながれば、それがこの触診キットをつくる一番の意味だと思っています。
早期発見を意識する「入口」の一つに
この触診キットを使ったからといって、乳がんを自分で診断できるわけではありません。
また、触っただけで病気の有無を判断できるものでもありません。
しかし、自分の身体に関心を持ち、変化に気づくことを意識する。
そして、気になることがあれば専門の医療機関へ相談する。
そうした行動へつながる「入口」の一つになることはできるのではないかと考えています。
乳がんについて「知っているつもり」で終わるのではなく、実際に触れて考える。
その体験が、検診や日頃の身体への意識について考えるきっかけになればと思っています。
まだまだ試作は続きます
現在は、まだ試作段階です。
完成には、もう少し時間が必要です。
シリコンの硬さ。
形状。
大きさ。
しこりを入れる位置。
乳房モデル全体の柔らかさ。
そして、実際に教材として使う際の説明方法。
考えなければならないことは、まだたくさんあります。
しかし、こうして一つひとつ試していく時間も、ものづくりの大切な過程です。
完成した姿を最初から決めすぎるのではなく、試作品を作り、意見を聞き、また改良する。
その繰り返しの中で、少しずつより良いものに近づけていきたいと思っています。
おわりに 〜「触って知ること」を、次の行動につなげたい〜
今回、乳がんの触診キットという新しいものづくりに取り組んでいます。
これまでエピテーゼや人工乳房の製作を通して培ってきたシリコンの知識や技術を、今度は乳がんについて知っていただくための教材として生かす。
私たちにとっても、新しい挑戦です。
硬さを変えてみる。
形を変えてみる。
触って確かめる。
そして、また作り直す。
その繰り返しを重ねながら、単に「しこりを再現した模型」ではなく、実際に触れることで学びにつながる触診キットを目指していきたいと思います。
「触って知ること」が、「自分の身体を知ること」につながる。
そして、自分の身体に関心を持つことが、気になる変化に気づいたときの適切な相談や受診を考えるきっかけになる。
そんな小さな気づきをつくることができるキットにしたいと思っています。
ものづくりの技術を、ものを作るだけで終わらせない。
そこから学びが生まれ、誰かが自分の身体について考えるきっかけが生まれる。
それもまた、私たちができる役割の一つだと思っています。
まだまだ試行錯誤は続きますが、医療関係者の皆さまのご意見もいただきながら、一つひとつ丁寧に試作を重ねていきます。
そしていつか、この触診キットが、乳がんについて知るための身近な教材として、さまざまな場所で活用されるものになれば嬉しく思います。
