
歯科技工士の減少と、これからの需給バランス
先日、歯科新聞に歯科技工士国家試験の合格者発表に関する記事が載っていました。
その中で、平成18年には2000人いた合格者が、平成28年には1000人を切り、現在に至っているという内容が紹介されていました。
この数字を見て、改めて歯科技工士の減少を強く感じました。
以前から「技工士が減っている」という話自体は、業界の中ではよく耳にしていました。
しかし、こうして実際の数字として見ると、その変化の大きさにあらためて驚かされます。
言葉だけで聞くのと、数字で突きつけられるのとでは、受ける印象がやはり違います。
しかも、この流れは一時的なものではなく、長い時間をかけて続いてきた変化です。
つまり、単なる一時の人手不足というより、業界全体の構造が少しずつ変わってきているということでもあるのだと思います。
歯科技工という仕事は、歯科医療を支える上で欠かせない存在です。
義歯、冠、ブリッジ、CAD/CAM冠、インプラント上部構造、矯正装置など、さまざまな補綴物や装置が、技工士の手や知識を通して形になっています。
患者さんが直接目にすることは少なくても、口の中で実際に使われるものを作っているのが歯科技工士です。
だからこそ、その担い手が減っているという現実は、決して小さな問題ではないと感じます。
数字で見ると、減少の大きさがより実感される
業界にいると、「昔より学生が少ない」「若い技工士が減っている」「採用が難しい」といった話は日常的に耳にします。
けれど、日々の仕事に追われていると、それをどこか漠然とした問題として受け止めてしまうこともあります。
しかし、国家試験の合格者数という一つの指標を見ると、その変化はとてもはっきりしています。
平成18年に2000人いた合格者が、平成28年には1000人を切る。
単純に見ても、10年の間に半減に近い変化が起きているということになります。
この変化は、養成校への入学者数や、業界への新規参入者の減少とも無関係ではないでしょう。
若い人が業界に入ってこなければ、当然ながら現場の年齢構成も上がっていきます。
そして高齢化が進めば、今後さらに現場を離れる人も増えていくはずです。
そう考えると、今後の歯科技工業界にとって、技工士の減少はますます大きな課題になっていくのだろうと思います。

それでも今のところ供給が何とか成り立っている理由
では、それだけ人が減っているにもかかわらず、なぜ今のところ補綴物の供給が何とか成り立っているのでしょうか。
この点について考えると、大きな要因の一つは、やはりCAD/CAMを中心としたデジタル技術の普及だと思います。
従来であれば、多くの工程を手作業で行っていたものが、今ではデジタルスキャン、設計、加工機による削り出し、データ保存、再製作といった流れの中で、以前より効率よく進められるようになってきました。
もちろん、すべてがデジタルに置き換わったわけではありません。
しかし、工程全体の効率化という意味では、技術の進歩が大きな助けになっているのは間違いないと思います。
一人の技工士が担える仕事の幅や量も、昔とは変わってきています。
以前なら時間がかかっていた作業が短縮され、再製作時のデータ活用もできるようになり、一定の症例については流れを標準化しやすくなりました。
そうした意味では、人が減った分を技術の進歩がある程度補ってきた、と言えるのではないでしょうか。
ただ、機械があればすべて解決するわけではない
しかし、ここで「ではデジタル化が進めば安心か」と言われると、そう単純でもないように思います。
CAD/CAMが普及しても、最終的に必要なのは、それを使いこなす人です。
機械が自動で動く部分は確かにあります。
けれど、その前後には必ず判断が必要です。
どのように設計するか。
どの材料を選ぶか。
どの症例にどの方法が適しているか。
どこに注意して形を作るか。
どこまで機械に任せ、どこから人の手で仕上げるか。
こうしたことは、機械そのものが勝手に決めてくれるわけではありません。
そこにはやはり、技工士としての知識や経験、そして症例ごとの対応力が必要です。
さらに言えば、口腔内の情報だけを見て作ればいいわけでもありません。
咬合や対合歯との関係、清掃性、患者さんの使いやすさ、見た目の自然さ、顔貌とのバランス。
こうしたことまで含めて考える必要があります。
デジタル化によって工程が効率化されても、技工士の役割そのものがなくなるわけではありません。
むしろ、求められる力の質が変わってきているのだと感じます。
今後は高齢化の影響もさらに大きくなるかもしれない
歯科技工士の減少を考える時、新規の合格者数だけでなく、現場で働いている技工士の年齢構成も大きな問題です。
今の業界は、長年支えてこられたベテラン技工士の力によって、何とか保たれている部分も少なくないと思います。
けれど、そのベテランの方々も、いずれは現場を離れる時期が来ます。
体力的な問題や、働き方の見直し、引退などによって、供給側の人数は今後さらに減っていく可能性があります。
今はまだ何とか成り立っている需給バランスも、この先ずっと同じように保てるとは限りません。
むしろ、ある時期から一気に厳しくなることも考えられます。
それは単に「忙しくなる」というだけではなく、納期、品質、対応できる症例の幅、人材育成の余裕など、さまざまな面に影響してくるはずです。
そうした変化が現実になってから慌てるのではなく、今のうちから考えておく必要があるのではないかと思います。
需要の側もまた、これから変化していく
一方で、供給側だけを見ていても全体像は見えてきません。
今後は、補綴物そのものの需要がどう変化していくかも考えていく必要があると思います。
高齢化社会の中で、補綴の需要が一定数続くことは十分考えられます。
義歯や補綴修復の必要性がなくなるわけではありませんし、機能回復の重要性は今後も変わらないでしょう。
また、審美性や快適性に対する患者さんの要求も、今後さらに高まっていくかもしれません。
加えて、デジタル化によって補綴の形そのものも少しずつ変わっていくはずです。
従来型の補綴だけでなく、データ活用を前提とした新しい流れや、院内とラボの連携のあり方も変わってくる可能性があります。
つまり、これからの歯科技工業界では、単純に「人が足りるか足りないか」だけでなく、
何が求められ、どのような形で供給していくのかという視点も必要になってくるのだと思います。
これから重要になるのは、人手不足対策だけではない
今後の歯科技工業界を考えるうえで、重要なことはいくつもあります。
人手不足をどう補うか。
デジタル技術をどう活かすか。
若い技工士をどう育てるか。
現場の知識やレシピをどう共有していくか。
働きやすい仕組みをどう作るか。
こうしたことのどれか一つだけではなく、すべてがつながっているように思います。
たとえば、若い人が入ってきても、育てる余裕や仕組みがなければ定着しにくくなります。
逆に、デジタル機器が整っていても、それを扱える人材がいなければ十分には活かせません。
また、現場ごとに積み上げてきた知識や工夫が属人的なままだと、世代交代のたびに技術が失われてしまう可能性もあります。
これからは、「個人の頑張り」に頼るだけではなく、
業務の仕組み化、知識の共有、育成しやすい環境づくりがますます大切になってくるのではないでしょうか。
求められるのは、手作業だけではない総合的な技術
私は、CAD/CAMの普及は間違いなく大きな助けになっていると思います。
しかし同時に、技工士の価値そのものが薄れていくのではなく、むしろ求められる力の中身が変わってきているのだと感じています。
これまで大切にされてきた手作業の技術は、もちろん今後も重要です。
形態を見る力、色調を合わせる感覚、仕上げの丁寧さ、微妙な調整の勘。
そうしたものは、簡単に機械だけでは代替できない部分です。
一方で、それに加えて、デジタルを理解し、機械を使いこなし、ワークフロー全体を考えられる力も必要になっています。
どの工程をどこまでデジタル化するか。
どの症例で何を選ぶか。
どの方法が効率的で、どこに人の判断を入れるべきか。
そうした全体設計の視点も、これからはますます重要になっていくのではないでしょうか。
そして何より、患者さんの口の中だけでなく、顔貌や生活背景まで想像しながら物を作る力。
そこに歯科技工の本質があるように思います。

若い人が目標を持てる環境づくりも必要
歯科技工士の減少は、決して他人事ではありません。
業界の先行きを考えるなら、今できることを一つずつ考えていく必要があると思います。
その中で特に大事なのは、若い人がこの仕事に目標を持てる環境づくりではないでしょうか。
技術を身につける喜び、作る仕事の面白さ、社会に必要とされる実感。
そうしたものを感じられる環境があってこそ、次の世代が育っていくのだと思います。
また、働きやすい仕組みづくりも欠かせません。
長く働けること、学び続けられること、技術を共有できること。
そうした土台があってこそ、人は安心してこの仕事を続けることができます。
人材不足を「仕方がない」と受け止めるのではなく、
どうすれば続けたくなる仕事にできるか、どうすれば育ちやすい環境を作れるか。
そうした視点を持つことが、今後ますます大切になるように思います。
おわりに
歯科技工士の減少という流れは、今後の業界を考える上で避けて通れない問題です。
国家試験の合格者数の推移を見るだけでも、その変化の大きさははっきりしています。
一方で、今のところ補綴物の供給が何とか成り立っている背景には、CAD/CAMをはじめとするデジタル技術の進歩があります。
それは間違いなく大きな支えになってきました。
しかし、だからといってすべてが自動的に解決するわけではありません。
機械を活かすのも人。
判断するのも人。
育てるのも人です。
これからの需要と供給のバランスがどうなっていくのか、簡単に答えは出ません。
けれど、少なくとも今は大きな転換点にいるのだと感じます。
技術の進歩を味方にしながらも、人を育てることを忘れない。
効率化を進めながらも、技工士としての本質的な価値を見失わない。
その両方があってこそ、これからの歯科技工は支えられていくのではないでしょうか。
私自身も、この変化の中で何ができるのかを考えながら、目の前の仕事と向き合っていきたいと思います。

